旅と米
大の旅行好きというわけではないが、年に1,2回のくらいの頻度で旅行にでかける。その土地の歴史や文化、生活を見聞きして体感するのはとても楽しい。その点、ご当地料理を食べることはまさに旅の醍醐味といえる。
米も当然ながらその土地その土地で存在感が違ってくる。これまでどんな米と出会ったのか、過去の旅で出会った米を思い返してみた。
ミラノと米
数年前に妻と新婚旅行でイタリア旅行に行った。各地の美味しい食べ物を頬張る妻の笑顔が多い旅だったが、そのうちで思い出深いのがミラノの米だ。
ミラノは、他のイタリアの都市と同じように荘厳なドゥオーモ(大聖堂)がある一方、現代しかも風変わりなビルが目立ち、文化と工業が入り混じった独特な雰囲気が印象に残っている。
ローマやフィレンツェとは何か違う、そんな印象は食でも感じた。パスタではなく米を使う名物、そうミラノ風リゾットだ。
パスタやパンなど小麦粉にどっぷり浸かっていた旅であったので、米、というだけで胃袋が刺激されたのを覚えている。ただ、米といっても日本の米よりは芯がのこっていて食感は違う。そもそも種類が違うのだ。
イネの品種は、日本で食されるジャポニカ米、タイ米などと呼ばれるインディカ米の2種類に大別される。イタリアでは、ジャポニカ米から分化したジャバニカ米という品種が主に食べられる。
このジャバニカ米、遺伝子的には日本の米の親戚だといっても、長さと幅も大きく粘り気が少ない。そういった特性もあり、リゾットもパスタ同様にアルデンテで調理する。
ミラノ風リゾットの味はというと、サフランの香りにバター、ブイヨンなどで結構こってりな味付け。これに日本の米だと重すぎる感じだ。
ミラノは緯度が北海道と同じくらいなのでジャポニカ米の栽培も可能だろうから、長い歴史の中ではジャポニカ米も食されたことがあったはずだ。しかし、粘り気がイタリア人の味覚にあわず淘汰。イタリア人の好みの味付けに合うジャバニカ米が生き残ってきた、と勝手に想像する。
主食というより食材の一つとして受け入れられてきたんじゃないだろうか。
ちなみに、イタリアの稲作の起源をさかのぼると、ミラノが起点となった説がある。
お米の栽培を奨励したのは、ミラノの公爵である。平野が広がるミラノ周辺は、お米の栽培には向いていたためである。1473年の公爵の手紙には、「私の領土に米を植えた。しかし、栽培方法に明るくないので、詳しい者を招聘した」①と書かれている。この時代にミラノで活躍していたレオナルド・ダ・ヴィンチも、現在まで残る草稿に「Riso (米)」という言葉を書き残している。
レオナルド・ダ・ヴィンチも裾をたくし上げて腰をかがめて田植えをしたんだろう、と思いを馳せるのも旅の浪漫なのかもしれない。
チェンマイと米
タイ旅行もどの都市の食べ物も美味しかった。ウムウムと味に頷きながらタイグルメを頬張る妻を思い出す。その中でも印象に残っているのはチェンマイだ。
チェンマイはいわゆる古都をうりにした観光地なのだが、京都や奈良もしくはカンボジアなどを想像していくと肩透かしをくらうはずだ。
なんというか全体的に金ピカ、ギラギラなのだ。
容赦なく塗り直されていたり、謎の電子工作が組み込まれた仏像があったり、と古都感がない。これも現在進行形で仏教が生活に根付いていることのあらわれなのだろう。
思っていたのと違う、という印象は米でも感じた。
一つ目の店で食べたレッドカレーと米。スパイスがきいたカレースープにパラパラの米をひたしてひと口。妻と顔を見合わせて「うまい!」とシンクロした。これぞ想像するタイ料理と米だ。
しかし、チェンマイに滞在しているうちに食べたパラパラお米はこれが最後だった。それから訪れた店々で出会った米は違った。もちもちしていたのだ。
小ぶりな竹かごに入っているのでフォークや箸だと少し取りづらい。聞いてみると手で食べてもよいそうだったが、少し抵抗があったのでフォークでたどたどしく食べる。妻は俄然もちもち派だったので、口に入れた途端、顔がぱぁーと光輝き、ギラギラとしたチェンマイ然とした顔になっていた。
日本で食されるジャポニカ米にうるち米ともち米があるように、インディカ米にもうるち米ともち米がある。バンコクなどではうるち米が主だが、チェンマイなどタイ北部はもち米が伝統的に食されているとのことだった。
ミラノでは米はあくまで食材のひとつという感じだったが、チェンマイでは主食としての根付き方がひと味違う。もち米を主食とする民族が主体となって育まれたのがチェンマイのラーンナーとよばれる文化なので、そういった印象もあながち間違いではないのだろう。
それにラーンナー文化のラーンナーは「百万の田、多くの田」という意味だから、米と密接に結びついた文化であることは間違いない。
ただナイトマーケットの謎寿司には勇気が出せなかった……はたしてもち米だったんだろうか。
日本と米
ミラノ、チェンマイでは美味しい郷土料理と米に出会った。日本国内の旅行はというと、米を主食とする点はチェンマイと同じだが、ひと味違った情熱を感じる。
これだけ米ありき、米を使ってどうにかしてやろうという米ドリブンな料理が多いのは日本だけだと思う。
さて、国内旅行で一番思い出深い米はなんだったろう。妻と意見が一致したのは北海道旅行で食べたおにぎりだった。
帰りの飛行機の時間までに軽く小腹を満たそうと札幌駅で見つけたおにぎり屋さん「ありんこ」。後で知ったが有名店らしい。
店名でちょっと躊躇したが思い切って入って正解だった。べにしゃけ、うめ、ツナマヨなどの定番以外もチーズかつおなど魅力的な具がたくさん。
この北海道旅行も美味しいものだらけで目を輝かせていた妻は、おにぎりも美味いのかよ北海道、と畏敬の念とともに米を噛み締めていた。
米と旅
ミラノ、チェンマイは美味しいお米と米にまつわる歴史があった。また、北海道を加えて米エピソードで思い出深かった3つの都市がのいずれも各国の北部に位置するのは偶然かもしれないが、これもなかなか面白い。
あとから思い返してもこれだけ気づきがある旅と米。旅行に行った当時はさほど意識していなかった米の使われ方も俄然興味が出てきた。むしろ米が主役の推し米を巡る旅も楽しいかもしれない。
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小田原出張ひとり飯にちょうどいい、アジのたたきとアジフライがうまい店
日ごろの外食は3歳児のお好みのお店にしかいけないので、たまの出張のひとり飯はいつも食べられないものを食べることにしている。
たまの出張で小田原に来た。
旅先のひとり飯はご当地の名物を食べたい。小田原といえばアジらしい。
アジは小田原を代表する魚!アジのたたきは小田原発祥と言われています。
刺身やフライも美味しく、アジ料理を食べさせてくれるお店が小田原にはたくさんあります。
小田原周辺でうまいアジを食べるなら、小田原漁港の最寄り早川という駅まで足を伸ばさないといけないらしいが、そこまでする時間がない。そこで、小田原駅でうまいアジを食べられる店を探すことにした。
ワイワイガヤガヤの中のひとり飯はあまりよい記憶がないので、旅先のひとり飯は店が混む時間は避けるようにしている。
日曜の17時前。まだ店が混む時間ではないが、こんな時間からやっていてうまいアジが食べられる、そんな小田原出張ひとり飯にちょうどいいお店があるんだろうか。
あった。
r.gnavi.co.jp小田原駅から徒歩3分、営業時間11:10〜21:00、日曜営業、アジがうり。
小田原駅から魚がしに行くには、地元民むけの商業施設と観光客向けのマルシェやら民芸品ショップが混在する地下街を通っていくと近い。地下街から地上に出るとにわかに観光客向けの店がいくつかならび、わずかな時間で旅行気分をあじわえるちょうどいい立地にある。
店の方向に三井住友銀行があったので、 念のためにお金をおろしておこうと寄る。銀行を出て、さて店はどこだと見渡すと、真隣にお店があった。ちょうどいい。
量産っぽい食品サンプルがならぶ入り口にやや気が引けたが、今から他の店を探すと混む時間になりそうなので、わりきって入ることにした。基本的には観光客向けの店なんだろう。
店に入ると、入り口付近で店員のおばちゃんたちが数人あつまって談笑をしていた。店内は奥行きがあって入り口の様子から想像するよりずいぶん広い印象を受ける。後で調べたら二階もあって100席近くある大きな店だったようだ。
こちらに気づいたおばちゃんが、いらっしゃいこちらどうぞ~と、入ってすぐの席に案内してくれた。
案内された席のあたりはややこぢんまりとしている。ひとり飯にはこれぐらいがちょうどいい。
メニューにざっと目を通して、一息ついて、すいませ~んとおばちゃんを呼ぶ。とりあえずアジのたたき、瓶ビールを頼んだ。
これから始まる店のかきいれ時前のひと休み、といった感じで店のおばちゃんたちは世間話をしている。やれダイエットしたいのにヨーグルトとアイスがとまらないだの、他愛のない話がとぎれとぎれに聞こえてくる。
そうこうしていると、瓶ビールが運ばれてきて、一口飲もうかどうか悩んでいるうちにアジのたたきがやってきた。アジ、アジ、アジと高ぶる気持ちを抑えて、スマートフォンで撮ったらこんな写真になった。
アジを醤油だけで一口たべてからビールをぐいっといって、そのあと生姜を醤油にといて多めのアジを……とアジを食べることだけ考えていたので、このときの気分がよくわかる写真になった。店の照明の具合がちょうどいい。
見た目からして、これは絶対うまいやつだ、というのがわかる。海なし県の長野出身の私としては、海鮮偏差値が非常に低いので、もうこれだけで合格だったりする。
予定していたとおり、最初は少しだけ醤油をつけて食べる。魚を食べるときにちょっとでも臭みがあると口の中が残念なことになって、それ以降も警戒しながら食べないといけない。このアジのたたきは当たり前のように微塵も臭みはなくて、安心してアジの味を楽しむことに集中できる。
案の定、最高にうまい。
しかし味がうまいからアジ、と言うけれどアジの味ってどう表現すればいいんだろう?ちょうどいい言葉が浮かばない。
アジは白身か赤身かというと、赤身魚に分類されるがマグロなんかとは系統が違う。まったく別の観点では青魚に分類される。青魚は体に水分が多く、EPA・DHAなどの脂肪酸が多いのが特徴で、これがアジのうまさの要因らしい。ただ、どちらも腐りやすさの要因にもなる。
つまり、アジの味は、身近な白身魚や赤身魚のどちらでもない青魚独自の味なのだが、それも鮮度が良くなければ本当の味ではない、ということになる。
しかも、小田原漁港で獲れた魚の90%は小田原市と周辺地域で消費されているらしく、もはやこのアジのたたきはここらでしか味わえない逸品ということになり、幼少に鮒の甘露煮やら鯉こくやら海鮮偏差値が低い魚料理しか食べていなかった私にはとても表現できない最高の味なのだから、とにかく楽しめと言うしかない。
小田原のアジは小田原の主力漁業である定置網で獲られます。定置網とは、魚を誘い込むように魚の通り道に網を仕掛け、中に入った魚を獲る漁法で、小田原では米神・石橋・江之浦・根府川に大型定置> 網の漁場があります。小田原を含む相模湾西部の定置網による漁獲量の90パーセント以上は、小田原市と周辺地域で消費されており、定置網漁業は極めて重要な漁法です。
そんな感じでアジのたたきを楽しんでいると、遠くからにぎやかな声が聞こえてきた。二階のお座敷で地元の人たちが宴会でもしているんだろう。たまにどっと盛り上がる声が聞こえる。これが真隣なりであったらと思うとぞっとしないが、なんとなく聞こえる宴会の声がひとり飯にはなんともちょうどいい。
宴会に触発されたわけではないけど、ここでもう一品を頼むことにした。はじめはアジのたたきと並んで店のうりであるアジの生すしにしようかと思っていたが、新鮮だからこそのアジをあえてフライで食べてやろうという発想にのることにした。
アジフライ入場。
出てきたのは肉厚なアジフライが4尾。干物のように薄く広くガバっと開いているアジフライばかり食べて生きてきたので、開いていることがアジフライのアジフライたる部分だと勝手に思いこんでいた。
アジを揚げればアジフライなのだ、という当たり前の気づきを得ながら一口。
「なにこれ、ふわふわしてる!」
ひとりなのに声に出してしまった。もちろん衣はサクサク。「外はサクサク、中はフワフワ」というフレーズはアジフライのためにあったのか、とまた気づきを得てしまった。なんて気づきの多いアジフライなんだろう。
アジのたたきも良いけれど、アジフライはソースにつけてビールを楽しむという基準点の高さに加え、新鮮なアジのうまさと、このサクフワ食感の加点要素が入るので、かるく銀河系最高得点を叩き出してしまった。
もちろん海の近くのアジフライ強豪校に囲まれて育ったような人たちにとっては当たり前の味なのかもしれないが、海鮮偏差値が底辺の私にとっては、アジフライの概念をかえるのに十分な逸品となった。
あぁ、これが優勝というやつか、ということで記念に写真を撮った。
アジのたたきにアジフライに瓶ビール、これで腹八分目、やや名残惜しいところで店を出ることにした。
うまいものに出会うといつも、もっとたくさん食べられたらいいのになぁ、と胃袋の小ささを残念に思うが、ほろ酔いの勢いにまかせて食べてもこれ以上満足しないことはわかっているので ちょうどいい頃合いで店をでる。これも出張ひとり飯の鉄則。
というわけで、小田原の出張ひとり飯にちょうどいい、アジのたたきとアジフライがうまい店の話でした。おそらく昼や夜のピーク時はたくさんのお客さんが来てこんなに落ち着いて食べられるわけはないだろうけど、さらっと小田原のアジを食べたい、そんな出張ひとり飯にはおすすめのお店です。
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山ウドとタラの芽の天ぷら
この季節になると長野の実家から山ほどの山菜が送られてくることもあり、それらを食べつくす山菜祭りがわが家のゴールデンウィーク恒例行事となりつつあります。
今年は、実家の裏山で採れたタラの芽と山ウドが大量に送られてきました。
ダンボール一杯の山菜(一部)
娘の顔よりでっかい雷電せんべいも入っていました
さて、山菜祭り。山菜の食べ方はいろいろあるようですが、天ぷらの方が祭り感がありますから、基本的には全部天ぷらにします。
食べやすい大きさにカットする作業
これの3杯ほどの量の天ぷらの種ができました
ちなみに、ウドというと白色を思い浮かべますが、それは光を遮断して育てた栽培物だからで、自生しているウドは緑色です。
そのため、細かく切ってしまうと、とくに茎の部分はタラの芽と区別がつかなくなります。ただ、鼻を近づけてみると山うどの香りの方が強く、匂いで区別をつけられるということがわかります。
私「うーん…山ウドの香りって言葉でとう表現すればいいんだろう?」
妻「うーん…わからない」
山ウドの香りを伝えたいんですがわが家の語彙力では伝えきれないようです。いい匂いなんですけどね。
そうこうしているうちに、下準備が完了。
熱せられた天ぷら油、何か始まるのかという雰囲気にテンションが上り始めた娘、会場も盛り上がってまいりました。
妻がひたすらに天ぷらを揚げ、娘がひたすらに天ぷらに近づこうとし、私がひたすらに娘を天ぷらから遠ざける、そして、みんなで揚げ揚げの山菜を食す、山菜祭りが始まります。
ヌルッ
シュパッ
ジュバーッ
ジィーッ(揚げ揚げの会場のかたわらで、物置で防衛線を張られる娘)
ドーン
無事に揚げが完了したところで、ここでもう一品。
天ぷら粉が切れてしまったため、残ったタラの芽は一緒に送られてきた胡桃と胡麻のたれと和えることにしました。地元は胡桃が名産なのです。
マヨネーズやお酢と混ぜても使える汎用性の高い逸品、そばつゆに入れると美味しくて笑いが出ます
タラの芽と胡桃だれの適当和え、口に入れて胡桃の香り、茎を噛むとタラの芽の香り、地元の旨み成分が詰まっています
いよいよ祭りも最高潮。実食です。
大量にある山菜の天ぷらをどう食べるのかというと、私は食感と香りをストレートに楽しめる塩、これが一番だと思います。
タラの芽は意外にも芋のようなほっくりとした食感
うってかわって山ウドは瑞々しいシャッキリポンなお味、とにかく香りがいい
妻は、辛味大根のすりおろしと天つゆが最強である、と語っていました。
この辛味大根も実家から送られてきたものです
タラの芽は辛味大根と天つゆをガッツリ絡みとってジューシーに
辛味といっても辛さはほとんどなく、山ウドの強めの香りがよく合います
その後、ポン酢による正攻法からマヨや粗挽きコショウなどの邪道の限りも尽くして、祭りは終了。
食べきれなかった分は、翌日たまごに閉じて美味しくいただきました。
うぉー
見た目はあれだが味はよい、相変わらず山ウドの香りが効いているし、タラの芽のホクホクさが活きる一品
というわけで、ゴールデンウィークのわが家の恒例行事、山菜祭りの様子でした。
娘がもう少し大きくなったら山菜を採るところから経験させてあげたいと思います。
理想のひとり飯を実現するためには
Netflix野武士のグルメお題「ひとり飯」
私もそうなのだけど、漫画で描かれるようなひとり飯に憧れたことがある人は多いと思う。
ところが、同じような体験をしてみようと思うとなかなかうまくいかない。
うまいと評判の店に行くと、宴会の騒ぎにまみれて落ち着かないし、行き当たりばったりで店構えが良さそうなところに入ると、常連さんだらけで肩身が狭い。
もっとこう、落ちついて淡々と美味しいものを食べながらちょっとだけ日々を省みつつビールを飲みたい。そんなひとり飯にありつくためにはどうすればいいんだろう?
例えば、久住さん原作のひとり飯ものは、整理するとこんな感じになる(漫画、ドラマ混在の個人的な印象をもとに)。
- 人気店に一見さんで攻め込む、孤独のグルメ。
- 人気店をリピートする、食の軍師。
- 無名のお店に入り浸る、荒野のグルメ。
- (野武士のグルメはどこにあてはまるんだろう?)
このうち、さほど混まないお店で自分なりの楽しみ方を満喫できる、荒野のグルメはかなり憧れる。
でも、常連になるのは難しい。そもそも、2歳児の親が夜な夜な居酒屋に行くなんてありえないというのもある。
そうすると孤独のグルメのように、外さなそうな人気のお店に一見で行く、これがある。
が、ここで大きな間違いをしがちで、たいていが人気店のピーク時に予約をして行ってしまう。そして宴会の喧騒にやられる。
何が違うのかあらためて見直すと、美味いものを自分のペースで落ち着いて食べてる主人公たちは、みんな空いてる時間帯に店に行っているのだ。
井之頭五郎は仕事柄、一般サラリーマンとはずれた時間で店に入っているし、荒野のグルメの東森良介も常連になった店に最初に訪れたのは開店直後だったりする。
人気店のピーク時に予約する愚。これが私がひとり飯を失敗してきた理由なんだと思う。理想のひとり飯を実現するためには、評判のいい店に空いてる時間を狙う、これしかない。
更に、2歳児の娘がいる普通のサラリーマンとしてこの作戦を実行するタイミングは、出張、その時しかない。
まず、出張先で仕事が終わったあと、近場でできるだけ早く入店できる評判のいいお店をいくつか探しておく。客入りが多くなる前の6時には入店したい。
そして、店に行って混んでいないのを確認して入店する。いささかせわしないひとり飯だけど、経験値がないんだからしょうがない。
こうして、理想のひとり飯ができたときのようすがこちら。
大阪は中津駅ちかく高架下にあるカウンターのみの茜という焼肉屋さん
左手に瓶ビールとコップ、右手にトングと割り箸、目の前に七輪、という最強の布陣でひとり焼肉。
タレが旨いのか肉が旨いのか、とくに小腸の脂の甘み成分に脳みそがやられた結果、小腸→カルビ→小腸→ハラミ→小腸という脂と肉と欲望にまみれたローテーションを完成させる。
店にはお一人様のおじさんがもう一人。テキパキサバサバとした店員さんの動きもよく、淡々と美味しい肉を食べ、些細なことを思案してビールで腹に流し込む、そんなひとり飯ににうってつけの雰囲気だった。
七時をまわる頃になって会社の同僚二人組やカップルらしき二人組で席が埋まりだす。
それでも高架下の騒音も手伝って隣の賑やかしが気になるということもない。
カウンターだけの店は団体さんが少ないし、焼肉はそこまで注文が飛び交わない。高架下というのも悪くない。
こりゃ、高架下カウンターひとり焼肉は意外と私のような素人ひとり飯に向いてるのかもなぁ、なんて思いながら二本目のビール瓶を空ける。
雰囲気を喰ってるんだか、肉を喰ってるんだか、みたいな話ではあるけど、この店の肉は間違いなく旨かった。ごちそうさまでした。
と、まぁ、機会はめったにないけれど、ささやかながらも手間をかけて理想のひとり飯を繰り返していけば、もっと美味しいひとり飯を体験できるのかもしれない。
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ハモネロ デ スノコ
困った。
ハモン・セラーノを置く台がない。
とりあえず娘のカタカタに乗せてみたが……
はてなからの贈り物
ある日、家に肉が届いた。
それは肉というにはあまりに……
大きく、ぶ厚く、重く、そして……
いろいろと大雑把すぎた……
一本の肉塊と一枚の紙。
自分で応募して当たった景品なので心当たりはあったのだけれど、忘れた頃にやってくるにしてはインパクトのあるお届け物だった。
食べ方とか、さしたる説明もない。
肉送ったから、煮るなり焼くなり好きなようにしてね!というかなりはてならしい?投げっぱなしな景品だ。どう食べろっていうんだ!
何より、これ、想像していたものより大きかった。
1歳2ヶ月の娘(75cmくらい)と比較
重さは約7kg。娘(9kg)よりちょっと軽い。
複雑な心境になる表現だが、1歳2ヶ月の乳幼児とおなじくらいの大きさの肉が送られてきたのだ。
ハモン・セラーノに必要なもの
ハモン・セラーノは、100グラム1000円とか数枚なのに600円とか、それなりのお値段がする高級生ハムだ。世界三大ハムの1つでもある。
ハモン・セラーノ(西: Jamón Serrano)はスペインで作られる生ハムである。「ハモン」とはハム、特に熟成したものをいい、「セラーノ」は「山の」という意味である。 ハモン・セラーノ - Wikipedia
実際は、我が家に届いた「原木(木みたいだからこう呼ばれるらしい)」と呼ばれる塊の状態で作られ、そこから切り出して食す。
もちろん、原木で買うと相応のお値段がする。我が家のハモン・セラーノ様は少なくとも2万円前後はするようだ。
実は以前からハモン・セラーノについてはネットの記事で知っていた。
「買ってしまった」やら「買ってはいけない(まんじゅうこわい的な)」と題されるほど個人が安易に手にできる食材ではないことから、気になりつつもおいそれ手を出せないよなぁ、と淡いあこがれを抱いていたのだ。
@nifty:デイリーポータルZ:豚の足一本分のハムを買ってしまった
生ハム原木を買ってはいけない(2016年追記あり) | N-Styles
そういう意味では、念願の食材が手に入ってワクワクが止まらない感はあったのだけれど、肝心なことに気づいてしまった。
購入した方々の記事を読み返すとないものがある。
そう、台がない。
台は「ハモネロ」と呼ばれる。この台がないとハムを切り出すときに困るので、原木を買った人には必須のグッズなのだ。
だけども問題は今日の肉、台がない
と口ずさむ私。
はぁ?という顔でこちらを見る妻。
さぁ、どうしよう。
はじめての食育?
当座しのぎで手押し車の上に置いたが、娘が今にも運搬しようとウズウズしている。
「台がない」問題の解決策を思案する間、ハモン・セラーノはとりあえず娘のプレイゾーンに置くことにした。
おもちゃたちの「新しい仲間?……」という戸惑いの声が聞こえてくる
冒頭に書いたとおり、届いたハモン・セラーノは全長75cm重さ7kg程度。娘とほぼ同じ。
台について調べる過程で知ったが、ハモン・セラーノの熟成期間は少なくとも36週らしい。おそらくこの原木も1年近くかそれ以上は熟成されているのだろう。
生後14ヶ月(当時)の娘を横にするとますます複雑な心境になる。
ハモン・セラーノにマウントポジションを取ろうとする娘
ちょうどいろいろな動物を紹介する「けもの」という絵本を愛読していたので、これがブーブの後ろ足なんだよ、と読み聞かせをしてみる。
にゃーにゃやわんわに比べてモーモやブーブは人気薄
いつもは興味なさげにササッとめくってしまう「かちく」のページをじっくり見ている。興味をもってくれたのだろうか。
買うべきか
さて、台だ。
ネットで調べると、決して安いものではない。というか高い。
楽天で在庫有りのハモネロ単体の最高額を調べてみると10万円もした。
送料無料!【アフィノックス(Afinox)ハモネロ(天然大理石)】【05P03Sep16】 |
だいたいハモン・セラーノの原木を買う人は多かれ少なかれセレブなのだ。
そりゃ台の売り文句に「クラシックなイメージの重厚感あふれる天然大理石」「一生もの」なんてキャッチコピーが踊るわけである。
中には5000円程度のものもあるけれど安いわけではない。それに、食べ終わった後の使いみちの無さを想像すると、やはり簡単にポチッとできない。
買うや買わざるや、悩ましい。
ささやかにDo It Youreself
結論が出ないまま所用で外出。その帰りに、ふと見上げるとある看板が目に入ってきた。
DOIT、ドンキホーテグループのホームセンター
Do It YoureSelfねぇ、うーん、自分で作ってみる?
と、思ったが、はっきりいってホームセンター的なお店とは無縁、自分でものを作った記憶を辿ろうとすると図工に辿り着きかねないほど、これまでの人生は工作スキルに一切ポイントをふってこなかった。
入店するにはしたが、なんというか目がすべる
何をどうすれば良いかわからないし、板を切って、釘を打って、なんて無理ゲーだよなぁ、と茫然とさまよっていると、見慣れたものが目に入った。
すのこか
万能ねぎ、万能すのこ、万能素材界のツートップの一つを使えば私でもなんとかなるかもしれない。
軽いノリでスノコを軸にそれっぽい材料をえらぶことに決める。と、不思議なもので材料を探すのが楽しくなってきた。
ネジの世界の深淵をのぞくなど
一通り材料を揃えたが、組み合わせるために部分的に穴を広げる必要があることがわかった。ここで工具を買ったら費用的に本末転倒だ。
ところが、ホームセンターは工具室も完備、てめーでやりやがれ精神に満ち溢れていた。
ゾンビに襲われたらここに逃げ込もう
万力の固定力に感動するもやしっ子
なんとか狙ったとおりキリを通して作業完了。組み立ては家ですることに。もちろん腑抜けた手のひらにはしっかりとマメができていた。なさけない。
スノコでハモネロを作る
スノコでハモネロを作ったことがある人はおそらく少ないだろう。まぁ、作ると言っても組み合わせるだけなのだけど。
スノコとスノコ拡張用の木材とネジと謎の金属板、材料費は2000円に収まった
ガシガシと組み合わせて
キリで拡張した穴にネジを2本通す
一応、このネジがスノコハモネロの肝で、上下でガッツリと挟み込んで固定をしてくれるはず。
いい塩梅に固定ができた
これだけでもかなりしっかりと固定されるが、さらに台座でも固定しないとハモネロらしさがでない。
本来の使い方が不明な謎の金属板をネジで固定
ガッツリ固定できた
行き当たりばったりで作ったにしては、わりとそれっぽいものが出来た気がする。いや、賛否はあるだろうが、そういうことにしたい。
ハモン・セラーノ開封の儀
ハモン・セラーノが届いてから2日が経った。
冷蔵された状態で届いた場合は1日から2日程度おいてから開封したほうがよいそうなので、タイミング的には悪くない。
このあたりの手順は先人たちの教え(上で紹介した2記事)が非常に役に立った。
開封すると、独特なオイリーな匂いがたちこめる
カビや余分な油をふきとり
オリーブオイルでせっせと磨く
生ハムは乳酸菌が生きている発酵食品なので、冷蔵保存で休眠している乳酸菌が活性化するまで待たなければいけないとのことだ。セットに付属のオリーブオイルでハムの表面をていねいに拭いて、もう一日我慢する。@nifty:デイリーポータルZ:豚の足一本分のハムを買ってしまった
乳酸菌というと私にとっては長野の実家で母が作る野沢菜漬けだったりする。野菜に肉に乳酸菌さんまじ有能だよね、と妻と話しながら作業をすすめる。
テカテカ、仕上がってきたハモン・セラーノ選手
いよいよ我がスノコにハモン・セラーノを設置するときがやってきた。
手にマメを作ってオリジナルスノコ台を組み立てたり、娘が寝静まった夜中に肉を磨いたり、なんでこんなことしてるんだっけ?と何度も頭に「はてな」を浮かべながらも、一応はここまでだどり付いた。
妻「おもいのほか、それっぽい」
私のものづくりへの期待値が低いというのもあるけれど、辛口レビューが多い妻に及第点をもらえたのがうれしい。
ちなみに置く向きはどっちが正しいのだろうか。
肉付きが良いほうが上にくるパターン
グーグルで画像検索すると、蹄の裏を上に向ける場合が多いことがわかる。こうすると、肉付きの良いほうが上に来る。
ただ、読めないスペイン語を無理やり翻訳したりして調べた結果、「初心者はうまく切れないだろうから、失敗してもいいように初めは肉付きが良くない方を上にしてごらん」という記事をみつけたので、今回はそれに習って設置することに(次回はあるのか?)。
いざ、玄関へ
さて、乳酸菌の活性化のためにこの状態でもう1日程度は待つ必要がある。
やはり先人の教えで、玄関に置くと映える(というか我が家も置き場所がそこしかない)と覚えていたので、移動することに。
付属品のラベルと荒縄?、それに娘の豚さん積み木を置いて完成
湿度と温度はどの程度がよいんだろう
うーむ、良い出来ではないだろうか。
後日、孫娘に会いに実家からやってきた母が玄関で悲鳴を上げていた。
ハモン・セラーノのある生活
さぁ、食べるぞとなってからが、また試行錯誤だった。
ものすごく硬い
そもそも専用のナイフじゃないのだけれど、たしかにコツが必要で売っている薄い生ハムを切り出すのは至難の業だとわかる。
これが限界
本日の収穫 赤ワインを添えて
しかし、先人たちの教えにもあったけれど、市販のものでは味わえないあえての厚切りハモン・セラーノは絶品だ。
今まで食べたことがない肉肉しい生ハムの食感、噛むごとに肉の味がじわりと口に広がる。赤ワインを口に含んで鼻から抜ける風味を楽しむ。
さて、明日から残りの肉塊をどうやって食べようか。
ある日は、スーパーで買ったチーズピザの上に。今年1番のうまいビールが飲めた。
ある日は、パッションフルーツとフルーツパインといちごで。
パッションフルーツといちごはイマイチだったが、フルーツパインは結構合う。
ある日は、厚切りトーストにとろけるチーズと焼き茄子で。今年2番目にうまいビールが飲めた。
まとめ
今回良かったのは、ささやかながらも、モノ作りの楽しさに触れることができたことでした。これまで何かあると既製品を買うことしか考えていなかったけれど、「作ってみる」という選択肢を増やすことができたのは収穫でした(すのこ自体は既製品なのだけど)。
やはり、行動の変化や新しい体験を促すきっかけになる買い物や贈り物は素晴らしいと思う。今年の娘の誕生日にはそういったプレゼントを贈りたいなぁ。
というわけで、ハモン・セラーノが贈られてきたことをきっかけに、スノコでハモネロをつくった話でした。スノコハモネロは解体されて本来のスノコの役目を全う中。
それどこ大賞「買い物」