野沢菜漬けは長野県の実家で食べるにかぎる
今週のお題「僕の住む街・私の地元」
いいぞ、いいぞ浅間山
自分の原風景は?と聞かれたら冬の浅間山を思い浮かべる。片道40分はかかる小中学校の登校、白い息を吐きながらてくてくと歩いたことを思い出す。遠くに見えるのはこの浅間山だった(写真の右から2番目)。
浅間山は観る場所によってずいぶんと形を変える。この姿を観られるのは地元の「長野県東御市」側からだけ、だと思う。
山田洋次監督が何かの撮影(たぶん、男はつらいよシリーズ)で訪れた時に「浅間山はここから眺めるのが一番だ」といったそうだがその通りだと思う。ただ、これはうち親父談なので浅間山が噴火する確率程度には確度が低い情報だけれど。
これは信濃追分駅あたりからみた浅間山。しなの鉄道で小諸駅から軽井沢駅に向かう時に軽井沢駅を進行方向に左手側に座ると浅間山を眺めることが出来る。じわじわと形をかえていく浅間山の姿を眺めるのも帰省の楽しみの一つだったりする。
と、正月に帰省してあらためて「いいぞ、いいぞ浅間山」と思ったんだけれど、もう一つ再発見したことがある。
実家の野沢菜漬けがうまい、うますぎる
昨年ばあちゃんが亡くなったこともあって母が初挑戦した野沢菜漬け。レシピが残っていたので味は幼少期から食べてきたものと同じだった。
食事中におかずと一緒に並べられた野沢菜漬けは食後のお茶うけとしてそのまま居座る、食の原風景があるとしたらこの野沢菜漬けが並ぶ食卓かもしれない。
市販の青々とした野沢菜漬けと比べると、まず色が違う。見た目だけではなく味と触感も違う。程よい酸味があり、ぶっとい茎まで瑞々しく歯切れよく食べられる、ボリボリというよりもモギュリモギュリ。
市販の「浅漬け」と実家のいわゆる「本漬け」の違い。モギュリモギュリとしながら「どうして違いがでるんだろう?」と気になった正月の疑問に終止符を打つべく調べてみた。
「本漬け」の味と触感を産む「乳酸発酵」
数日漬けるだけの「浅漬け」に対して、「本漬け」は一ヶ月以上漬け樽に漬け込む。野沢菜と塩そして各家庭のお好みの素材(しょうゆ、昆布、鷹の爪などなど)を大きな樽に入れ、石をのせて漬ける。
11月頃に仕込んだ野沢菜漬けは12月過ぎに食べ始められて徐々に酸っぱくなっていく。2,3月頃の食卓では「もう酸くなっちゃたねぇ」なんて会話がよくされる。
野沢菜漬けについて調べると「乳酸発酵」というキーワードが出てきた。
漬物は種類が多く、わが国だけでも300種類を越える といわれている。漬物には、発酵したものと発酵させないものがある。発酵漬物は乳酸菌や酵母が関与し、特有の風味を醸成し、保存性を付与する。…低塩漬物(野沢菜漬、泡菜、搾菜、サワークラウトなど)の保存性にも、乳酸菌は寄与している。
「乳酸菌の機能を生かしたバイオプリザベーション(3)」
http://www.nyusankin.or.jp/scientific/moriji_2.html
どうも乳酸発酵が野沢菜漬けの味と触感に関わっているようだ。どういう仕組なんだろう?と調べるてみたところ東京農業大学短期大学部醸造学科の教授のコラムに行き着いた。
サワークラフトとは、サワー(酸っぱい)クラフト(野菜)という意味で、特にドイツを中心に発展してきた漬物です。…現在では、細切りキャベツに食塩を加え乳酸発酵させる方法…製造の手順は、まず、原料のキャベツを切りやすいように「しおらし」1)を行い、葉を水洗後、細切りします。この細切りキャベツに塩をまぶしながら容器に入れ、押し蓋と重石をのせて16~24℃で乳酸発酵させます。発酵温度の違いにより、概ね2週間~1ケ月で完成です。…サワークラフトは、他の漬物に比べ食塩濃度が比較的低い(2~3%)ので、発酵初期には、キャベツに付着している多くの種類の好気性細菌(雑菌)が生育してきます。勿論、数種の球状乳酸菌もやや遅れて活発に生育してきます。当然、それらの乳酸菌は、乳酸(0.7~1.0%)と少量の酢酸やアルコール、その他の物質を生産します。すると、キャベツのpHが低下し雑菌は減少、死滅し、またサワークラフトは微妙な香味となります。発酵中期~後期になると、更に多量の乳酸を生産できる別の桿状乳酸菌が活発に増殖し乳酸濃度は高まり(1.5~2.0%)酸味が増強します。場合によっては酵母なども生育してきます。このように多くの微生物が発酵経過中に様々に関与することにより、歯切れが良く、さわやかな酸味と微妙な香味をもつサワークラフトが出来上がるというわけです。
「キャベツとすんき菜 乳酸が主役です」
http://www.nodai.ac.jp/teacher/101814/2011/1/1104.html
酸味と歯切れに乳酸発酵が関わっているというのはわかった。だんだんと酸っぱくなるのは、「期間」と「気温」が要因となる。ぶっとい茎を美味しく食べられるのも発酵が関係してそうだ。
が、そもそも「乳酸菌」ってなんだ?のレベルの自分には半分程度の理解…ここから先は野沢菜漬けレシピを受け継ぐときにまでの宿題!
「しみる」とうまい野沢菜漬け
長野には「しみる」という方言がある。味がしみるではなく、凍みる。芯まで寒いときに使われる。
近年は暖冬で池に氷がはることはめったになかったけれど、今年はかなり冷え込むことが多く、佐久駅付近のお店の水車も動いているのに氷が張り付くほどだった。それを見た親父が「今年はしみたから野沢菜がうまい」と言っていたのを思い出した。
しみると野沢菜漬けがうまくなる理由は2つ、漬ける前と漬けた後にそれぞれあるようだ。
一つは漬けた後、乳酸発酵の話。暖かいと発酵が進んですぐに酸っぱくなってしまう。漬け樽に氷が張るくらいしみていると発酵がゆるやかに進んで程よい酸味を楽しめる。
ちなみに漬け樽から取り出した野沢菜漬けは空気に触れると酸化して味が落ちるので、食べる分だけ都度取り出すのが一番美味しい食べ方となる。
氷が張るほどの冷たい樽から野沢菜漬けを用意してくれる母に感謝。
もう一つは漬ける前、「凝固点降下」の話。
霜に当てると何故おいしくなるのか。「霜が降る気温まで下がる事が重要なんだね」。気温が氷点下になると、水分というのは凍ってしまうが、ほとんどが水分で出来ているのに野菜は凍らない。これは、凝固点効果というものが関係しているという。凝固点効果というのは、水に他の物質を混ぜる事で、氷点が下がるという効果だ。野沢菜は、気温が下がっていく課程で、沢山の糖を出して凍るのを防いでいる。そのため、野沢菜などの冬野菜は気温が下がると甘くなって美味しくなるのである。これが、寒い地域の野沢菜は甘みがあって、美味しいという所以だ。
「農家を訪ねてVol.21」
http://www.j-sanchoku.net/index.php?f=hp&ci=25917
凍っちゃわないように糖をだす野沢菜さんすごい!
実家の野沢菜漬けがうまいのには理由があった
野沢菜漬けは長野県の実家で食べるにかぎる。
- 「本漬け」しているからうまい
- 「しみる」からうまい
- 野沢菜漬けを漬け樽から食べるたびに取り出してくれる母親がいるからうまい
住んでいる時には気づかなかった地元の良さ・面白さ。都会で暮らした後にお客さんとして訪れると気づくことが多くある。調べるともっとわかることがある。今年は地元の面白さをもう少し探求していこうかなーと思ったお正月とその後でした。