ちょろげ日記

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私のサイレントベビー的な知識は「子どもへのまなざし」という育児書から

「赤ちゃんがなにかを訴えて泣いているのに母親がすぐに対応しないと、なにも要求しない子になってしまう」という「サイレントベビー」にまつわる問題について書かれた記事を読みました。

www.buzzfeed.com

この記事、私は大きく3点について書かれているように読めました。

  • 医学的根拠がないサイレントベビー問題
  • 子育て母親絶対主義問題
  • 上記2つを前提に母親を煽るネットサイト問題

そのとおりだと頷きながらしたり顔で読んでいたんですが、正直なところ1つ目については、そうだったの!?という感想でした。

「サイレントベビー」という単語そのものは聞いたことがなかったんですが、乳児期はできるだけ子どもの要望に応えてあげないと、そのうち周囲に対して期待を抱かずに信頼しない子になってしまう、といった言説は見聞きしたことがあったのです。

 

私のサイレントベビー的な知識は「子どもへのまなざし」という育児書から

まず、サイレントベビー的な話を私がどこで読んだか思い返すとこの育児書でした。

子どもへのまなざし (福音館の単行本)

子どもへのまなざし (福音館の単行本)

この本の以下の章あたりです。

  • 乳児期に人を信頼できると子どもは順調に育つ
    • エリクソンによる乳児期の発達課題
    • 赤ちゃんが望んだことは満たしてあげる
    • 乳児は自分では何もできない
    • お母さんを信頼できる子どもは人を信頼する

全編通じてそこまで母親絶対主義という本ではなかったように思いますが、ここでも「お母さん」というキーワードが。

著者の主張の土台にあるのが、エリクソンという発達心理学者の「心理社会的発達理論」です。Wikipediaに、乳児期から老年期までの課題を以下のように整理してる表が掲載されていました。

年齢 時期 導かれる要素 心理的課題 主な関係性 存在しうる質問 関連する精神病理
生後- 乳児期 希望 基本的信頼 vs. 不信 母親 世界を信じることは出来るか? 授乳 精神病、嗜癖、うつ病
18ヵ月- 幼児前期 意思 自律性 vs. 恥、疑惑 両親 私は私でよいのか? トイレトレーニング、更衣の自律 妄想症、強迫症、衝動性
3歳- 幼児後期 目的 積極性 vs. 罪悪感 家族 動き、移動し、行為を行ってよいか? 探検、道具の使用、芸術表現 変換症、恐怖症、心身症、制止
5歳- 学童期 有能感 勤勉性 vs. 劣等感 地域、学校 人々とものの存在する世界で自己成就できるか? 学校、スポーツ 創造的制止、不活発

エリク・H・エリクソン - Wikipediaの「エリクソンの心理社会的発達理論」より5歳児までを抜粋

著者は、この表にある「生後」の部分の心理的課題「基本的信頼VS不信」を採用して以下の通り話が進みます。

それでは、どういうことが乳児期の育児課題なのでしょうか。人間が生涯を健全に、健康に育ち機能するために、スタートとしての乳児期にどういうことが育児上のテーマとして、たいせつなことなのかということです。それはひとことでいうと「人を信頼することができるように育てる」ということです。

 

どうしたら人を信頼できるようになるか、それはエリクソンはこのように言っていると思います。それは赤ちゃんの側から見ますと、自分の望んだことを、臨んだ通りに十分にしてもらうことであります。ですから、乳児期の理想的な育児があるとしたら、親は赤ちゃんが望んでいることを、望んでいるとおり、全部その通りにしてあげるということです。そのことが、子どもが人を信頼できるようになる、第一歩だと思うのです。

初めて読んだ当時はふむふむと疑問を持たずに読み進めていましたが、「エリクソンはこのように言っていると思います」とか「だと思うのです。」とか、わりと曖昧な表現が多かったんですね……。

ただ、以降の展開では実験をベースに根拠があるように書かれています。お題は、深夜の授乳に関する実験。

赤ちゃんを2つのグループに分けて、一方は、泣いてもなにしても深夜には授乳しない、昼間も規則正しく乳児院のやり方で定時授乳を守る。もう一方は、子どもがのぞむたびに授乳をするというふうに、実験的な育児をしました。

そして、実験ベースの一つ目の事実がこちら。

最初のグループで深夜の授乳はけっしてしないと決めますと、一部ですが、早い赤ちゃんは3日も泣けば、翌日まで泣かないで待てるようになるそうです。授乳したりしなかったりすれば別ですが、深夜にはけっしておっぱいをやらない、あやさない、だっこをしないというようにしますと、たいていの赤ちゃんでも一週間前後で、翌時の朝まで泣かないで、おっぱいを待てる子になるそうです。二週間をこえてもなお、泣き続ける子どもは例外的にしかいないことも、実験をやってみた結果、研究者は報告しています。

あれ?子どもの要望に応えなくても大丈夫?と思いきや、実験の話はまだ続きます。

そうしましたら、結論的にわかったことは、3日ぐらい泣いて翌日まで待てるようになった子どもは、一部の専門家が予測したような、いち早く忍耐づよい子になったのではなくて、むしろ困難に対して早くギブアップする子だということがわかったのです。忍耐づよくないのです、反対なのです。いつまでも泣き続ける赤ちゃんのほうが、本当は忍耐づよい、かんたんにはギブアップをしない子どもだったのです。

と、そもそも子どもの持って生まれた性格があるという話をはさみ、子どもの要望に応えるべきかどうかに関わる話はここからです。

何年にもおよぶ追跡観察の結果では、赤ちゃんのときに、深夜にはおっぱいをもらえないということがわかって、すぐに泣かない子になった赤ちゃんは、早く現実の意味を理解して、かしこく忍耐づよい子どもになったなんて想像したら、とんだまちがいでして、ちょっとした困難をすぐ回避しようとする、困難を克服するための努力を、すぐ放棄する子どもに成長していったのです。そして、いつまでも、二週間以上も泣き続けた赤ちゃんのほうが、努力をし続ける子どもに成長していったのです。

ところが、それ以上にたいせつなことが観察され、知られることになりました。3日にしろ、二週間を越えてにしろ、結局はだめなものはだめだということで、泣き止むしかなかったということは、子供の心に周囲の人や世界に対する漠然とした、しかし、根深い不信感と自分にたいする無力感のような感情を、もたらしてしまうということです。それにたいして、深夜であろうとうそうでなかろうと、泣くことで自分の要求を表現すれば、その要求が周囲の人によって、満たされるということを体験し続けた赤ちゃんは、これから報告しますように、自分をとりまく周囲の人や世界にたいする信頼と、自分にたいする基本的な自身の感情が育まれてくるのです。

とくに後半がこの実験(をもとに著者が主張したいこと)の趣旨です。

あー、これこれ。たしかここを読んだことがありました。なので、元記事のサイレントベビーの否定部分についてそうだったの!?という感想を持ったのでした。

でも、子どもの要望に応えるべきかというところが、実験でわかった事実を書いているのか著者の主観を書いているのか曖昧です。「これから報告しますように」と書かれているものの、以降で明確にその事実が実験から導かれたと読みとれる箇所はありませんでした。

それに実験の具体的な名称もかかれてませんし、具体的な数字もありません。ネットで調べようとしましたが、日本語の記事はほぼ同書の著者「佐々木正美」さんからの引用もしくは転載ばかりで、大元の実験にたどり着けませんでした。残念。   

そんなわけで、最初に鼻息荒く読んだときは、これは実践しなければ!という決心でしたが、あらためて読むと、書かれていることはなんとなく納得いくけど、それって根拠があるの?と言われると大きな声であるとは言えないし……、ケースバイケースで子どもの性格をみてほどほどに実践していこう、という感じになっています。
 
ただ、それもある程度育児を経て余裕が出てきたから言えることで、子どもが生まれたばかりで何もわからないし疲弊しているし、という状況だとどうなるのかというと、この本のアマゾンレビューでは……

育児ノイローゼになりました(泣)

子どもにどうしたらいいのか、正解があるのは知っています。著者がおっしゃることが正論です。わかっています。でも物理的に無理なんです。普段、子どもとしっかり向き合っています、でも働かなくては食べていけない現実もあり、子供達が寝てから家事と仕事もしています。

子供達の要求にすべてこたえてやりたいです、体が3つあったらいいのに、っていつも思っています。毎日3時間しか眠る時間がありません。

(子どもへのまなざしアマゾンレビューより)

 

なぜこんなに高評価なのか。

確かに良いことは書いてありますが、実際の日々の子育てで実践していると確実にノイローゼになります。二人目を出産直後に勧められて読みましたが、すごく追い詰められました。自分はいかにダメな母親なのかと説教されているような気分になります。真面目な人、完璧主義の人は絶対読まない方がいいです。あと、育児に疲れているお母さんも。この本に救いを求めても追い詰められるだけです。

心に余裕のあるときに、参考程度に読むのがちょうどいい本です。

(子どもへのまなざしアマゾンレビューより)

根拠の有無や煽り具合はサイレントベビーと全く違いますが、あるべき論に追い詰められる親(とくに母親)の構図はネットに限らず育児界隈につきまとうようです。

   

育児書に対するスタンスはどうすべきか

そういう育児界隈の中でどうすればいいか。

あくまで個人的な意見ですが、子ども(赤ちゃん)と性格・親の性格と環境・育児方針にあわせて、情報を取捨選択してほどほどに育てる、つまり、その時の定説と娘の現状を踏まえて「よそはよそうちはうち」でやっていくのが良いと思っています。

その考え方の助けになりそうだったのがこの本でした。

いまの科学で「絶対にいい! 」と断言できる 最高の子育てベスト55―――IQが上がり、心と体が強くなるすごい方法

いまの科学で「絶対にいい! 」と断言できる 最高の子育てベスト55―――IQが上がり、心と体が強くなるすごい方法

めちゃくちゃ胡散臭いタイトルですが、とくに子ども(赤ちゃん)に関する事実(実験ベースの根拠)のネタが多くて面白いです*1

ただ事実のみの内容かというと、筆者の主張も見え隠れする部分もあるので、この本も参考程度に読むのが良いのだと思います。

むしろ、本の中で一番いいこと書いてあるなと思ったのは、冒頭部分。

社会科学の研究が誰にも当てはまるような心理にたどりつくことは、非常にまれです。(略)

たとえ研究結果が繰り返し立証されてもなお、自分の子に該当するとは限りません。統計的には「中間」を取って最終報告を出すので、該当しない子どもが出てきます。(略)

子どもに個性があるように親も一人ひとり違います。(略)

その意味では、この本は、いわば「道案内」のようなものです。よさそうだと思う道を選んだり、いまの道のままでいいのかを確認したりするのにつかってください。すべてのアドバイスに従う必要はありません。赤ちゃんが生まれたら、できるだけ肩の力を抜きましょう。

これはまさに、その時の定説と娘の現状を踏まえて「よそはよそうちはうち」でやっていく方針にピッタリの考え方です。     

夜泣きに対する「泣かせっぱなし」の実験について

そうそう、この本のなかで夜泣きに関する実験について書かれていました。

生後8ヶ月の赤ちゃん数百人を対象に、以下の3パターンで実験

  • (泣かせっぱなしパターン1)時間を決めてあやす
    • 泣いている赤ちゃんを短時間(一分未満)背中をさすったり声をかけたりしてあやしてから、部屋を出てドアを締めて三分間放置。同じことを繰り返し、次は5分間放置。次は10分間。初日は10分間を上限に、一週間かけて徐々に時間を引き伸ばし、赤ちゃんがひとりで過ごす時間を増やす。
  • (泣かせっぱなしパターン2)フェードアウト
    • ベビーベッドのそばに座り、歌をうたったりして声で寝かしつける。三週間かけて、毎晩少しずつ椅子をベッドから遠ざけて、最終的には部屋を出る。
  • 非介入
    • (本には明記されてませんが多分、上記のやり方を支持せずに親の好きなようにやるというグループ)

この泣かせっぱなしパターン1、パターン2、非介入で5年後に違いが出たかどうかを調べた、という内容です。

その後、6歳になった子どもたちに追跡調査を行いました。「泣かせっぱなし」を経験した子どもは、非介入のグループよりもストレスを受けている?メンタルヘルス、社会的なスキル、睡眠問題、両親との関係は?母親のうつ症状、不安、ストレスの状態は?結果は、すべての項目において差がありませんでした。(略)

研究データが伝えたいのは、「時間を決めてあやす」「フェードアウト」のテクニックをこの月齢の赤ちゃんに行っても無害であり、睡眠の問題を軽減できるということです。

サイレントベビーの話に比べるとよほど説得力があります。泣かせっぱなしの方法の難易度も高そうですが……。

ちなみにこの実験の論文はこちらのようです(英語が読めん!が辿ることはできます)。

http://pediatrics.aappublications.org/content/early/2012/09/04/peds.2011-3467

 
 

 サイレントベビーの否定はむずかしい

で、サイレントベビーの根拠はないようだし、サイレントベビーの流れで取り上げられることが多い「泣かせっぱなし」も特定の方法でやる分には問題ないという実験結果がある。

これでサイレントベビーはきっぱり否定できるぞ、となりそうですが、個人的にはわりとむずかしいと感じました。

一つは、サイレントベビー的なものが浸透しているため、覆すのがむずかしいということ。

グーグルでサイレントベビーと検索してみると、1ページ目に冒頭の記事は出てくるもののほとんどがサイレントベビーの言説を裏付けにした記事です。

また、アマゾンで高評価の育児書でもサイレントベビーの考え方にかぶる言説が掲載されています。

この点で、これから子育てをはじめる人たちには、サイレントベビーもしくそれに似通ったメッセージが届きつづけてしまうはずです。

 

もう一つは、受け取り方がむずかしいということ。

サイレントベビーや子育て母親絶対主義の話と、どう子どもと信頼関係を築いていくべきかがごっちゃになりやすいように思います。

ちょっと大元の記事に話を戻します。

「サイレントベビー」の大元の課題は「子どもの社会性・忍耐力を育む」あたりだと思いますが、どうも「育児は母親主体でやるべき」という方法ありきの言説になっているようです。

「子どもの社会性・忍耐力を育む」ことを目指すべきだが、できていない子どもが増えていて、現状の一つとして「サイレントベビー」がある。ギャップを埋めるための方法として「母親主体の育児の徹底」があるからやってみよう(本当に言いたいのは「母親主体の育児の徹底」なんだけどね)。みたいな感じです。

そのせいか、「育児は母親主体でやるべき」の是非と「子どもの社会性・忍耐力を育む」ための考え方がごっちゃになりやすいと思います。冒頭の記事も最初に読んだときに論点がどこなんだろう?と気になりました。

さらにサイレントベビーの流れで取り上げられることが多い泣かせっぱなしの話になると、母親主体の育児という視点が入らなくても成り立つので、よりごっちゃごちゃになりやすいと思います。

極端な話、夜泣きは泣かせっぱなしでうまくいくんだから、育児全般も非干渉の方針でいても「子どもの社会性・忍耐力を育む」ことには影響ないんでしょう、と受け取られることもあるかもしれません。さすがにそこまではないか……。

まとめ

というわけで、いろいろと整理してきましたが、サイレントベビーの否定はむずかしいのかもなぁ、と感じました。

サイレントベビーは否定をしつつも、「子どもの社会性・忍耐力を育む」ためにどう子どもと信頼関係を築いていくべきか、という視点も持たないといけないのではないかな、と思います。

では、子供との信頼関係を築くためにどんなことを気をつけているか……は、ちょっと長くなったのでまた整理してみたいと思います。

*1:ちなみにこの本で取り上げている実験などのリファレンスはWebで公開されています(が、英語が読めん!そして本の章との対応づけがないので、どの部分のリファレンスなのか探さないとたどり着けない)References | Zero to Five