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ちょろげ日記

日々のちょろっとしたことを

食後すぐの歯みがきNG説が広まった背景まとめ

調べてまとめ

日本小児歯科学会のサイトに掲載された「食後の歯みがきについて」を読みました。

www.jspd.or.jp

最近になって、食後すぐに歯をみがくと、あたかも歯が溶けてしまうというような報道が新聞やテレビで伝えられたため、現場がやや混乱しているようです。

という問題について

結論としては、通常の食事の時は早めに歯みがきをして歯垢とその中の細菌を取り除いて脱灰を防ぐことの方が重要です。

という日本小児歯科学会の提言が書かれています。  
 
実際、この説を聞いたことがあるという方は多いんじゃないでしょうか。私も「食後30分は歯を磨かないほうがいいらしいよ」と友人から教えられて、えっ食べたらすぐに歯磨きという教育は間違いだったの?と思った記憶があります。  

提言では「あたかも歯が溶けてしまうというような報道が新聞やテレビで伝えられたため」とぼかしてありますが、この説はどんな経緯で広まったんでしょうか?ちょっと調べてみました。

 

提言がされたのは2012年

調べる前に一つ確認です。冒頭の提言の「最近」っていつのことなんでしょうか?

最初は2015年現在のことかと思っていましたが、同サイトに全く同じ文面が掲載されたお知らせページを見つけました。そのURLや関連ツイートから判断すると、提言自体は2012年頃に作られたようです。

http://www.jspd.or.jp/contents/gakkai/information/2012_01.html

 
ということは「あたかも歯が溶けてしまうというような報道が新聞やテレビで伝えられたため、現場がやや混乱している」状況は、少なくとも2012年以前のことのようです。  
 

テレビによる伝播、古くは2006年から

では、いつ頃からテレビなどを通じてこの説が伝えられていたのでしょうか?

ツイッターなどで検索すると、例えば2010年4月に日テレ「クイズ!本当にそれでいいんですね!?」という番組で「食後30分以内に歯磨きをすると歯を傷つける恐れがある」という内容が伝えられたことがわかります。

Yahoo!知恵袋からもそういった放送があったことがわかります。放送日が4月1日というのがちょっと面白い。

detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

 
また、さらに古くは2006年7月に「食後30分は歯磨きを控えたほうが良い」という趣旨の放送もあったようです。

detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

食事の後直ぐは食品中のカルシウム等で再石灰化が行われるらしいので磨かない方が良いそうです。30分ぐらいはおいた方がいいとTVでやっていました。  

 
もっとしっかり調べれば更に昔からあるのかもしれませんが、少なくとも2006年にはあった説のようです。結構古いんですね。

 
 

断片的に知る・伝えると誤解を招く?

それでは、どんな内容で放送されていたんでしょうか?

放送を観た人の方のツイートだけでなく放送の内容がわかる番組として、2010年9月に放送されたNHKのためしてガッテンがありました。

www9.nhk.or.jp

簡単にまとめると、次のとおりです。

 
歯の表面はエナメル質で覆われている。歯の食いしばりや歯周病などにより、エナメル質が削られると象牙質が露出する。これが知覚過敏の原因となる。さらに象牙質は酸に弱いため、酸性のものが含まれる食事をとった後すぐに歯を磨くと削れてしまう可能性がある。だから、食後のすぐの歯磨きは控えたほうが良い。

 
この放送では「象牙質が露出している」ことと「酸性の飲食物」が「食後すぐの歯磨きを控えたほうが良い」ことの前提になっています。

ところが調べてみると、この前提にふれずに「食後すぐの歯磨きを控えたほうが良いと、ためしてガッテンでやってた」とツイートをする方もいらっしゃいました。

他のテレビ放送の内容がどうだったかはわかりませんが、ためしてガッテンを例に取ってみると、放送を断片的に観た方・伝えた方によって件の説が広がってしまった可能性もありそうです。

 

「象牙質露出&酸性飲食物の場合、食後すぐの歯磨きを控えたほうが良い」ことのソース

ちなみに調べた限りでは、「象牙質露出&酸性飲食物の場合、食後すぐの歯磨きを控えたほうが良い」の裏付けとして次の論文があるようです。

www.ncbi.nlm.nih.gov

詳細は理解しきれませんが、酸性の炭酸飲料「スプライトライト(ph2.9)」に象牙質の標本?を浸し、被験者の口に移して歯磨きをした場合に、歯磨きを始める時間によって、象牙質の損傷の度合いが違うかどうかを調べた実験のようです。

これは冒頭の提言で書かれていたものに近い内容です。

これらの報道のもととなったのは、実験的に酸性炭酸飲料に歯の象牙質の試験片を90秒間浸した後、口の中にもどしてその後の歯みがき開始時間の違いによる酸の浸透を調べた論文で、むし歯とは異なる「酸蝕症」の実験による見解なのです。

さらにこの論文自体は2004年のものですから、時系列上は2006年に放送された番組や2010年放送のためしてガッテンの元ネタになりえます。真偽はわかりませんが、もしかすると件の説の発端はこの論文かもしれません。  
 

伝え方の問題?

ためしてガッテンの元ネタだったとして場合、放送した内容は論文の趣旨に近い形で伝えられていました。一方で、たしかに論文を元ネタにしているはずなのに情報が欠落して伝えられているケースも有ります。

 
2012年5月にニューヨーク・タイムズに論文を元にした記事が掲載されます。タイトルで誤解を招きそうですが、本文では酸性のものを飲食した直後に歯を磨かないように、と書いています。

Really? Never Brush Your Teeth Immediately After a Meal

Never brush immediately after an acidic meal or drink. Always wait at least 30 minutes.

 
同年6月にデイリー・メールに似たような記事が掲載されます。これもタイトルで誤解を招きそうですが、酸性炭酸飲料を飲んだ後に、ということが読み取れます。

Brushing your teeth after meals can actually damage them | Daily Mail Online

After drinking fizzy or acidic drinks, the acid burns into the enamel of your teeth - and the layer below the enamel, called 'dentin'.

 
そして、同年6月にデイリー・メールを翻訳転載?した記事がロケットニュースに掲載されます。

rocketnews24.com

上の2つの記事より「深刻」なタイトルになっているような…。実験の流れを説明しているので「象牙質が露出している」という前提は想像できそうですが、本文には「酸性炭酸飲料」という前提は一切書かれていません。

この記事をツイートしている方々のコメントをざっと見る限りでは、この記事の伝え方に問題があるような気がします。

 
また、伝え方に問題がありそうな例として、2012年2月に日経新聞に掲載された記事があります。 

www.nikkei.com

エナメル質自体もpH5.5以下で溶けるので、強い酸性のものを飲食した直後は歯磨きをしない方がいいという記事ですが、タイトルだけではそれは読み取れませんし、会員登録してログインしないと本文が読めません。

 

直近の動向は?

ところで、2012年の提言の後、なにか動きはあったのでしょうか?

調べてみると2013年の日本歯科保存学会の「テーマ:歯みがきを再考する―エビデンス(根拠)とコンセンサス(合意)―」の内容が見つかりました。

メディアによって広まった「歯みがきによる歯のダメージを防ぐには、少なくとも食後30分以上たってから歯みがきをするのが望ましい」という言説について、根拠を探り、専門家間で合意を形成することねらった活動について書かれています。

日本歯科保存学会2013年度秋季学術大会 抄録(pdf)

その中で、2013年5月に「食後とは酸性食品を摂取した直後に限定され、一般の食事の後ではない」「30分という時間は主としてin vitroにおける酸蝕症の実験から導き出されたもので、一般のブラッシングにそのまま当てはまるものではない」ことについて合意形成がなされた、と書かれています。

これはつまり「歯みがきによる歯のダメージを防ぐには、少なくとも食後30分以上たってから歯みがきをするのが望ましい」の根拠がない、ことを示しています。  
 

まとめ

専門知識がない人がただネットで調べただけの内容ですが、食後すぐの歯みがきNG説が広まった背景をまとめるとこんな感じです。

  • 2004年に「象牙質露出&酸性飲食物の場合、食後すぐの歯磨きを控えたほうが良い」ことを示す論文が出る。
  • 2006年から2012年にかけて、同論文を元ネタとする(したと想定される)テレビ番組やネット記事が登場する。
  • 伝わり方・伝え方の問題によって、「食後すぐの歯磨きを控えたほうが良い」ことだけが広がる。
  • 2012年に日本小児歯科学会が提言を掲載する。
  • 2013年に日本歯科保存学会で「歯みがきによる歯のダメージを防ぐには、少なくとも食後30分以上たってから歯みがきをするのが望ましい」の根拠がないことについて専門家間で合意形成がされる。

 
というわけで、これまでの習慣通り食後の歯磨きをしようと思います。