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ちょろげ日記

日々のちょろっとしたことを

なぜ液体ミルクが日本で商品化されないのか考えてみた

調べてまとめ 子育て

トピック「液体ミルク」について

もうすぐ赤ちゃんが生まれるわが家でも知っておいたほうがよい「液体ミルク」の話題。いくつかの記事を読むと、なぜ日本で「液体ミルク」が売られていないのか?という疑問が浮かんできます。

その答えの1つとして、厚生労働省が液体ミルクを製造流通させるための省令改訂をしない→業界団体からの要望がない→メーカーに市場ニーズが伝わっていない、ということから、「液体ミルク」に市場ニーズがあることを国内粉ミルクメーカーへ伝えようという活動が起きています。

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なるほど、と思いましたが、国内粉ミルクメーカーが市場に一定のニーズがあることがわかった上で「液体ミルク」を導入していない可能性はないでしょうか?

ということで、なぜ日本で液体ミルクが売られていないのか?まとめてみました。あくまで仮説ですので、考え方の観点としてそういうものもあるのかぁ程度でご理解いただけると幸いです。

なお、以降は基本的には、授乳目安期間を0~9ヶ月としている乳児用調製乳(Infant formula)を対象としてまとめています。

 

乳児用調製乳(Infant formula)の種類

なぜ?の前に、そもそも乳児用調製乳の種類に何があるのかを整理しておきます。

日本では乳児用調製乳=粉ミルクという認識が強いと思いますが、次の通り3種類あります。

  • 粉ミルク (powder) 水に溶かすタイプ
  • 液体濃縮ミルク(liquid concentrate) 同量の水を加えるタイプ
  • 液体ミルク(ready to feed) そのまま飲めるタイプ

液体濃縮ミルクや液体ミルクはやはり馴染みがありません。日本のAmazonでも販売されているので入手できますが、リーズナブルなお値段とは言いづらいですね……。


 

乳児用調製乳(Infant formula)のシェア

なぜ?の前のもう少しだけ現状把握をしておきます。乳児用調製乳の種類によるシェアの違いはどの程度あるのでしょうか?ただし、ここは、データの確からしさや対象の確からしさを保証しかねるので参考程度でご覧ください。

まず、WICのグラフをみてみます。WICとは「Woman,Infant,Children」という所得に応じて5歳以下の子供に無料で食品を提供するというアメリカのプログラムです。

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The Infant Formula Market Consequences of a Change in the WIC Contract Brand

2004年から2008年までと少し古いデータですが、乳児用調製乳の種類の売上高比率がわかります。

売上高比率なので、実際の利用頻度の比率と同じとは言い切れませんが、アメリカでも乳児用調製乳の主力は粉ミルクであることが予想されます。

次に、同じく売上高比率の比較ですが、乳児用調製乳の歴史についてまとめられた記事のグラフをみてみます。

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Infant Feeding in the 20th Century

こちらは2000年までの更に古いデータですが、2000年時点のデータではやはり粉ミルクが主力となっています。
   

なぜ液体ミルクが日本で商品化されないのか?

という前段を踏まえて、液体ミルクが日本で商品化されて売られていない理由を考えてみます。ここからは、ネスレ日本の高岡社長の著書「ゲームのルールを変えろ――ネスレ日本トップが明かす新・日本的経営」からデータを引用しつつ見ていきます。
 

粉ミルクは利益率が高い

まずは、粉ミルクの利益率が高いということです。

本来、乳業メーカーにとって付加価値が高い粉ミルクビジネスは、最大の利益商品だ。日本の乳業メーカーはどこも低い利益率にあえいでいるが、粉ミルク事業に限って言えば、当時も20%を超えていたはずた。ネスレの利益率も、世界の粉ミルク事業の平均で25%を超えている。「ゲームのルールを変えろ――ネスレ日本トップが明かす新・日本的経営」より

液体ミルクの利益率がどの程度かデータは見つけられませんでしたが、おそらく粉ミルクより高いということはないと思います。収益性という観点では、国内粉ミルクメーカーが液体ミルクを開発して流通させる動機は低そうです。

さらに、日本の市場規模はどうかというと、少子化していますから縮小傾向です。

数字も何もみていない適当な憶測ですが、言ってみれば、成熟した市場において利益率が高く寡占状態の粉ミルク事業は、各メーカーにとっては「金のなる木」であるのかもしれません。

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そう考えるとそこに、代替商品であり利益率がそれほど高くない液体ミルクを導入する可能性は低く感じられます。
 

海外メーカーの参入は厳しい

では、すでに液体ミルクを展開している海外メーカーの参入が期待できるかというとこれも厳しいようです。実際、ネスレが日本の粉ミルク市場に参入するか検討したことがあったそうですが断念をした経緯があるそうです。

その背景には、WHOコードと呼ばれる「母乳代用品の販売流通に関する国際規準」があります。

1960年代、先進国では出生率が軒並み低下し、乳業メーカーは、市場が縮小する分を埋め合わせようと第三世界へ進出した。過剰な広告をして、産院には膨大なサンプルを渡し、専門家達には贈り物をして旅券や学会を世話した。産院ではミルクが過剰に使われ、人工栄養の赤ちゃんがどんどん増えた。母乳は、赤ちゃんが母親の乳首を直接吸う刺激によって作られる。粉ミルクを使いすぎると、母親の体に「母乳を作れ」という指令を送ることができないのだ。この人工的な母乳不足は、清潔な水や消毒設備が得にくい国々では、たいへんな結果を招いた。細菌が繁殖したミルクを飲むことになったばかりか、粉ミルクを買い続けられる経済力がなく、薄く溶いたミルクを飲ませる人もたくさんいた。このため、下痢や栄養不足で、たくさんの赤ちゃんが命を失った。これに対し、欧米の市民活動家や小児栄養の専門家たちは、抗議を始めた。(略)WHOコードは、こうした抗議行動の成果として、企業が営利本位に暴走することから赤ちゃんを守るために作られた。粉ミルクの販売戦略とWHOコードより

WHOコードは勧告であるものの法制化している国もあり、ネスレなどの世界市場で展開している企業は、WHOコードを遵守する必要が出てきます。

そんな中、日本はどうか?というと

日本では、産婦人科で出産すると、栄養士が授乳相談に乗ってくれる。その栄養士は、産婦人科が雇っているのではない。粉ミルクメーカーから派遣された栄養士であり、その営業活動によってシェアが決まる。この仕組みがいまだに続いている世界だ。「ゲームのルールを変えろ――ネスレ日本トップが明かす新・日本的経営」より

たしかに、この間行ったアカチャンホンポには粉ミルクメーカーの栄養士が販売応援で派遣されていましたし、産婦人科のマタニティー講習に行ったら粉ミルクの無料サンプルをもらいました。日本においてこれがいいか悪いかはわかりませんが、WHOコード的にはNGなことが行われているのが現状です。

国内粉ミルクメーカーのような広告・売り方ができないことや、関税で利益率が下がることを考えると、ネスレが断念したように海外メーカーの日本市場への参入は厳しいことが考えられます。

これはつまり、日本の粉ミルク市場においては、国内粉ミルクメーカーの寡占状態が続くことを意味します。そうすると、先の利益率の話に戻ることになります。
 

どうすれば液体ミルクが日本で商品化されるのか?

なぜ液体ミルクが日本で商品化されないのか考えてみましたが、どうすれば商品化されるのか、肝心の答えが浮かびません……例えば、トップシェアの明治乳業ではなく、2番手3番手、もしくは更に下の4番手5番手あたりの企業に「液体ミルクを必要とするニッチな市場」をとる戦略を狙ってもらうとか、でしょうか。

というわけで、冒頭あげた活動がうまく国内粉ミルクメーカーに伝わればよいですが、いろいろ調べてみると、中々難しいかもしれないなぁという印象をうけました。  
 

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