ちょろげ日記

日々のちょろっとしたことを

現代サンタクロースを生み出したのはコカコーラ社ではなかった

「お父さん、ちょっとお話が…」保育園へお迎えに行ったある日、園長先生が深刻な顔をして近づいてきて、何かあったかと思ったら、

「サンタやりません?」

と軽いノリで重めの依頼をいただきました。何が重いって、「本当のサンタさんがやってくる」という期待に応えないといけないですし、園児80人にバレないようにミッションをこなさないといけないんですね。何よりわが娘が目を光らせています。

一方で私はサンタ経験ゼロ……という状況で、無事にやり遂げることができたんですが、ちゃんとしたサンタ?になるべく調べていたら、現代サンタクロースのイメージについて勘違いしていたことがあったのでまとめておこうかな、という内容です。  

万人に通じる現代サンタのイメージ

依頼を受けて、どうしようかといろいろ調べた結果、サンタ衣装と伊達メガネと大量のひげで、中にダウンジャケットを着込んだらいけるでしょうと、変装したのがこちら。

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初サンタにしてはそれらしく変装できたような気がします(画像はやや加工してます)。保育園の子供たちにも「本物のサンタ!」と盛り上がってもらって、娘にもバレずにミッションコンプリートできました。

それにしても、サンタ役をやって初めてきづいたんですが、そもそもサンタクロースって誰でも変装しやすいデザインになってるんですね。万人にサンタだ!と通じる特徴を持っているおかげです。

いったい誰が生み出したんでしょうか?  

コカ・コーラ社が1931年に現代サンタを生み出した?

たしかコカ・コーラ社が絡んでいたような?と調べてみると、ホームページで以下のような記載がありました(太字は私が加工)。

サンタクロースは、4世紀ごろトルコに実在した守護聖人、聖ニコラスの伝説にもとづいた伝説上の人物です。クリスマスには欠かせないキャラクターとして広く知られていたものの、共通のイメージはなく、その姿は、愉快な老人の小人や妖精、恐ろしげな子鬼まで、さまざまに描かれていました。 
1931年、コカ・コーラ社のクリスマスキャンペーンのために、画家ハッドン・サンドブロムが描いたサンタクロースは、赤い服に白いあごひげをたくわえ、見るからに陽気で楽しいサンタロース。その人間味あふれる表情やしぐさは、たちまち人びとの心をとらえました。 
<省略> 
“白いあごひげに真っ赤な衣装の陽気なサンタ”。今でこそおなじみのその姿、実は画家ハッドン・サンドブロムがコカ・コーラ社のクリスマスキャンペーン用に描いた絵がきっかけになっています。

https://www.cocacola.co.jp/history_/story/santa

これだけ読むと1931年にコカ・コーラ社(画家ハッドン・サンドブロム)が現代サンタクロースを生み出したように受け取れます。

というか、はっきりと「現代のサンタクロースを生み出したのは、ハッドン・サンドブロムという名の画家でした。」と言い切っているページもありました。

真っ赤なビロードや白い縁取りのコートに白いふさふさのあご髭。陽気な笑顔のサンタクロースは、いまや、クリスマスに欠かせない存在ですね。 ところが、現在の私たちがイメージしているこのサンタクロースは、ずっと昔から存在したわけではありません。イメージを確立させてきたのは、そう、「コカ・コーラ」のクリスマス広告なんです。同時に、「コカ・コーラ」の広告を通して現代のサンタクロースを生み出したのは、ハッドン・サンドブロムという名の画家でした

「赤い服に白いヒゲ」のサンタクロースを生み出した画家の 貴重な作品アーカイブス!: The Coca-Cola Company

しかし、調べてみると「生み出した」という表現はどうもふさわしくないようです。  
 

コカ・コーラ社が現代サンタを生み出したわけではない、を裏付ける具体例

実は、「コカ・コーラ社が現代サンタを生み出したわけではない」ことを説明しているサイトはかなりあります。むしろ私が知らないだけで有名な話なのかもしれません。

例えば、ファクトチェック(事実検証)をまとめているスノープスというサイトでは「Did Coca-Cola Invent the Modern Image of Santa Claus?(コカコーラが現代のサンタイメージを生み出したのか?)」というお題に対して、「False( 嘘だと確証できる根拠が揃っている場合に使用)」という結論を掲載しています。

www.snopes.com

Although we can identify some of the most influential sources who contributed to the formation of the modern Santa Claus figure (such as writers Washington Irving and Clement Clarke Moore, historian John Pintard, and illustrator Thomas Nast) no single person or institution can lay claim to having created him(適当意訳:現代のサンタイメージに影響を与えた人たちはわかるけど、誰か1人と特例できるわけではない)

The red-and-white Santa figure existed long before Coca-Cola began featuring him in print advertisements, and he had already supplanted a bevy of competitors to become the standard representation of Santa Claus before he began his tenure as a pitchman for Coke(適当意訳:現代サンタのイメージはコカコーラが広告で使う前から存在しました。それに、サンタがコーラを宣伝するより前に、すでに同じように広告に使われることもあったのです。)

それでは、コカ・コーラ社の主張が間違っていると証明できる事実はどのようなものでしょうか。  

例えば、Wikipediaのサンタクロースのページで、「サンタクロースの姿・特徴」や「コカ・コーラにまつわるデマ」を読めば、具体例つきで手っ取り早くコカ・コーラ社の主張が間違っていることがわかります。

サンタクロース - Wikipedia

が、せっかくなのもうすこし具体例を追ってみたいと思います。なお、以降で現代サンタ率xx%と書いているのは完全に私の主観です。  
 

1809年 現代サンタ率1%

まず、サンタクロースという呼称とともに現代サンタの基礎イメージが生み出されたタイミングについて。

サンタクロースは、セント・ニコラスがモデルになったと聞いたことはありますが、どうしてサンタクロースという呼称になったんでしょうか。

セント・ニコラスをオランダ語読みするとシンタクラース となります。オランダでは14世紀ごろからセント・ニコラスの命日にシンタクラース祭を行う慣習があり、その外観はこの通りでした。

Sinterklaas 2007.jpg
By Gaby Kooiman, CC BY-SA 3.0, Link

シンタクラースは、老齢の、威儀正しい、謹厳な人物で、白髪と顎全体を覆う長いあごひげをもつ。 伝統的な白の僧正のアルバ (衣服)(祭服)の上に赤い長ケープ(カズラという)をまとい、赤いストラを付けることもある。 シンタクラース - Wikipedia

その後、オランダ人入植者がアメリカ大陸へシンタクラースの慣習を持ち込み、そのうちにアメリカナイズされて、英語読みのサンタクロースになったそうです。サンタクロースという呼び方自体は1773年には登場していたとのこと。

そして、サンタクロースという名称がシンタクラースのイメージから切り離されるきっかけが登場したのは1809年。Washington Irving(スノープスの記事で影響を与えた1人とされる)が、サンタクロースの新しいイメージを生み出します。

In January 1809, Washington Irving joined the society and on St. Nicholas Day that same year, he published the satirical fiction, Knickerbocker's History of New York, with numerous references to a jolly St. Nicholas character. This was not the saintly bishop, rather an elfin Dutch burgher with a clay pipe. (適当意訳:1809年にWashington Irvingが陽気なセント・ニコラスに言及した風刺作品「 Knickerbocker's History of New York」を発表した。セント・ニコラスは聖なる司教ではなく、陶製パイプをくわえた「elfin Dutch burgher(妖精のようなオランダ市民)」としてえがかれた。)

St. Nicholas Center ::: Origin of Santa

「elfin Dutch burgher」の訳は適当ですが、少なくともシンタクラースからは離れたイメージであることがわかります。ただ、離れたといっても、この時点では現代サンタの要素はまだ生まれていなかったようです。

また、ここで面白いのが、Washington Irvingはサンタクロースの描写をオランダ入植者・文化の風刺作品の一環で描いたところです。言ってみれば現代サンタは風刺から生み出されたとも言えそうです。

 

1821年 現代サンタ率10%

その後、Washington Irvingの発想の延長線上でこんな感じのサンタも登場していたようです。

The Children's friend. Number III. A New-Year's present, to the little ones from five to twelve. Part III (1821), page 1.jpg
By Unknown - The Children's friend. Number III. A New-Year's present, to the little ones from five to twelve. Part III (1821), page 1. Available online at Beinecke Digital Collections, Yale, Public Domain, Link

 
シンタクラースの老齢、ひげ、赤い長ケープという要素に「elfin Dutch burgher」感がミックスされた姿といわれればそうとも言えそうです。ただ、まだまだ現代サンタらしくはありません。  
 

1823年 現代サンタ率30%

1823年、ついに現代サンタの土台となるイメージが生み出されます。

この年に発表された「A Visit from St. Nicholas(サンタクロースがきた)」という詩(作者は諸説あって Clement Clarke MooreかHenry Livingston Jr.のどちらか)に登場します。詩なので文章のみですが、どんなイメージだったかというとこちら。

頭から足まで、毛皮の服を着て、それが灰とススにまみれていた。

後ろにはおもちゃを沢山背負って、包を開く前の行商人のようだった。

目が光っていて、えくぼが幸せそうで、頬は紅色で、サクランボみたいだった。

小さな口を弓のようにして、あごには雪のように白いヒゲを生やして、歯にはパイプをきつくかんで、煙が花輪のように頭をめぐっていた。

サンタさんの顔は広くて、丸いお腹は笑う時に震えて、ジェリーが入ったボウルのようだった。かわいく太っていて、愉快な妖精のようだった。

サンタクロースがきた - Wikipedia

毛皮の服をきて白いひげで太っている、このあたりの表現が以降のサンタイメージの土台となるっていったようです。パイプでタバコをくゆらせるようなイメージは淘汰されていったみたいです。

 

1868年 現代サンタ率50%

少し時間をおいた1868年。この頃には50%ぐらいは現代サンタじゃない?と思わせるサンタが登場しています。シュガープラムというキャンディーの広告に登場するサンタです。

Santa Claus Sugar Plums, 1868.png
By U.S. Confection Co., N.Y. - This image is available from the United States Library of Congress's Prints and Photographs division under the digital ID cph.3g02275. This tag does not indicate the copyright status of the attached work. A normal copyright tag is still required. See Commons:Licensing for more information., Public Domain, Link

また、早々に広告に使われているあたり、贈り物を届けるというキャラクターの使い勝手の良さが現れています。世界的なキャラクターになっていく片鱗がうかがえます。  
 

1881年 現代サンタ率70%

そして、1881年には「A Visit from St. Nicholas(サンタクロースがきた)」をもとにThomas Nast(この方はスノープスの記事でも影響を与えた1人として挙げられていました)作のサンタクロースが発表されます。これは70%は現代サンタと言えるんじゃないでしょうか。

Santa's Portrait TNast 1881.jpg
By Thomas Nast - 'Santa's Portrait' byThomas Nast, published in Harper's Weekly, 1881 Photo image obtained/rendered by Gwillhickers., Public Domain, Link

 

1901年 現代サンタ率95%

そして、1901年、1902年頃。PUCKという雑誌から、ほぼ現代サンタのイメージが出来上がっていることがわかります。

Puck Christmas 1901 LCCN2010651489.jpg
By Miscellaneous Items in High Demand, PPOC, Library of Congress - Library of Congress Catalog: https://lccn.loc.gov/2010651489 Image download: https://cdn.loc.gov/service/pnp/ppmsca/25500/25586v.jpg Original url: https://www.loc.gov/pictures/item/2010651489/, Public Domain, Link

Santa1902PuckCover.jpg
By Frank Arthur Nankivell - This image is available from the United States Library of Congress's Prints and Photographs division under the digital ID ppmsca.25693. This tag does not indicate the copyright status of the attached work. A normal copyright tag is still required. See Commons:Licensing for more information., Public Domain, Link

ちなみにPUCKは、風刺雑誌だそうです。生み出されるきっかけがWashington Irvingの風刺だったことを考えると、このサンタは正統進化したサンタクロースなのかもしれません。  
 

1914年 現代サンタ、日本へ

ちょっと面白いのが、日本にも1914年には現代サンタが伝わっている点です。日本の子供雑誌『子供之友』からそのことがわかります。

1914 Santa Claus.jpg
By kodomo no tomo - kodomo no tomo, パブリック・ドメイン, Link

   

1918年 プロパガンダに使われるほど浸透

また、広告だけでなくプロパガンダとしても使われていた歴史があるようで、1918年の第一次世界大戦ではこんなサンタも登場しています。でも、イメージは現代のサンタそのものです。

"Peace. Your Gift To The Nation. A Merry Christmas." - NARA - 512601.jpg
By Unknown or not provided - U.S. National Archives and Records Administration, Public Domain, Link

 

1920年 現代サンタ率100%

Norman Rockwellによる画風は少しこれまでの系統と違いました。自身の1913年の作品ではこれまでの他のサンタと同様にやや漫画チックな表現でしたが、

1913-12-Boys-Life-Norman-Rockwell-cover-Santa-and-Scouts-in-Snow-400.jpg
By Norman Rockwell - http://www.best-norman-rockwell-art.com/norman-rockwell-boys-life-cover-1913-12-santa-and-scouts-in-snow.html, Public Domain, Link

1920年には妖精というよりは人間のおじいさんがベースのサンタクロースが描かれています。

1920-12-04-Saturday-Evening-Post-Norman-Rockwell-cover-Santa-and-Expense-Book-no-logo-400-Digimarc.jpg
By Norman Rockwell - http://www.saturdayeveningpost.com/2015/12/02/art-entertainment/art-and-artists/santa-claus.html, Public Domain, Link

1922年も同様に人間味あふれるサンタクロースが登場しています。

1922-12-02-Saturday-Evening-Post-Norman-Rockwell-cover-Christmas-Santa-with-Elves-no-logo-400.jpg
By Norman Rockwell - http://www.best-norman-rockwell-art.com/norman-rockwell-saturday-evening-post-cover-1922-12-02-santa-with-elves.html, Public Domain, Link

身体的特徴だけでなく温かい人柄を感じる、という背景まで描かれたサンタはまさに現代サンタクロースと言えそうです。  
 

1931年 コカ・コーラ社が現代サンタを生み出す?

という流れから10年後の1931年。

現在の私たちがイメージしているこのサンタクロースは、ずっと昔から存在したわけではありません。イメージを確立させてきたのは、そう、「コカ・コーラ」のクリスマス広告なんです。同時に、「コカ・コーラ」の広告を通して現代のサンタクロースを生み出したのは、ハッドン・サンドブロムという名の画家でした

うーん……。    
 

まとめ

現代サンタの定着に一役買っているのは間違いない事実だと思いますが、「コカ・コーラが1931年に現代のサンタイメージを生み出した」かどうかというと、ちょっと違うのではないかな、という印象です。

個人的には、現代サンタは複数の人が段階的にイメージを膨らませて生み出されてきた(諸説あります)、が結論です。

調べてはいませんが、おそらくコカ・コーラ社の功績はアメリカ以外へサンタクロースの共通イメージを広めたことではないでしょうか。

Washington Irvingがシンタクラースをアメリカナイズしてから、サンタクロースはアメリカの文化の中で育まれてきました。一方で、ヨーロッパなどではサンタクロース的なポジションはシンタクラースであったり、ファーザークリスマスであったり、クリストキントであったり、と様々だったようです。

ファーザークリスマス(イギリス、フランスなど多数)

Postcard of Father Christmas with two children
By Unknown - TuckDB Postcards, PD-US, Link

クリストキント(ドイツ南部、オーストリア、スイス、ハンガリー、チェコ、スロバキアなど)

Lustige Geschichten und drollige Bilder für Kinder von 3 bis 6 Jahren 03

ジェド・マロース(ロシア、セルビアなど)

Ded Moroz 72.jpg
By Sergeev Pavel - 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, Link

Olentzero(スペイン バスク地方)

Olentzero Hendaia 2006.JPG
By Josu Goñi Etxabe - nik egina, own work, Public Domain, Link

 
これらの文化が残っている地域もあるようですが、そういった地域も含めて世界的にサンタクロースの共通イメージを通じるようにした、ことにコカ・コーラ社が貢献しているとすれば、それはとても素晴らしい功績だと思います。そのおかげで私もこどもたちに笑顔で手をふってもらえましたし。

ちなみに、現代サンタを生み出したのがコカ・コーラ社であるという説は根強く残りそうです。

諸説あります的なノリなので、テレビ的に好きそうなお題ですが、コカ・コーラ社のポジションを考えるとその主張に難癖つけるようなネタをメディアが大っぴらに取り上げるとは考えにくいからです。

そんなわけで、来年もサンタクロースの大役がきたら、ひそかに先人の創造力に感謝しつつ、バレずに子どもたちを喜ばせるミッションを楽しみたいと思います。